建築構造の話

家を建てようと考えている方や家を購入しようと考えている方も、建築構造についての基本的な知識を持っているほうがよいのではないでしょうか。そこで建築構造についての基本的な考え方をご説明します。

建築構造の役割は、内外から建物に作用する力に対抗して建物が崩壊しないように建物を保持することです。

建物に作用する力は、現実には種々あると思いますが、建築構造を考える場合には、重力によって生じる力(垂直に作用する力)と地震や風による力(水平に作用する力)との2方向の力について検討します。実際には地震や風によって建物が受ける力は水平力だけではありません(事実、神戸の地震では垂直の力によって多数の建物が破壊されました)が、便宜上、水平に作用する力として検討します。水平に作用する力は、直行する2方向について別々に検討する必要がありますので、3方向の力といえるかもしれません。建物内部には家具などが置かれ、人がそこで活動します。家具や人の重さは建物に作用する力(荷重)となります。雪が屋根に積もればそれも荷重となります。また、建物自体の重さ(自重)もあります。これらが建物に垂直に作用する力となります。建築構造は、この2方向(3方向)の力のそれぞれに対して十分な耐力を持っていなければなりません。

建物に作用する力は、最終的に地盤によって支えられます。ですから、地盤の強度(地耐力)は重要な問題です。建物を建てる場合には、必要な地盤調査を行わなければなりませんが、敷地を選ぶ時点でその地盤の状態をある程度知っておくほうが好いでしょう。建築構造を検討するとは、別な言い方でいえば、建物に作用する力を如何にスムーズに、構造に大きな負担をかけずに、地盤まで伝達するかを考えることだといえるでしょう。建物の構造を見る場合には、まず地盤までの力の流れを見る必要があります。

建物の構造は、特殊な構造を含めるとその種類は無数にありますが、基本的には柱と梁を主体とした構造壁構造とに分けられます。柱と梁を主体とした構造には軸組構造ラーメン構造とがあります。柱と梁の接合部分が剛接になっているものをラーメン構造、そうでないものを軸組構造と呼びます。軸組構造では、柱と梁だけでは水平力に対抗できないので、筋交を入れるなどした構造壁が必要になります。ラーメン構造でも、水平力に対抗するための耐力壁を設ける場合があります。木造の場合、日本建築の伝統的な構造(在来工法)は軸組構造にあてはまり、ツーバイフォー(2×4)は壁構造になります。鉄筋コンクリート造(RC造)では、ラーメン構造または壁構造になります。鉄骨造(S造)の場合は、原則的にラーメン構造となります。

平屋建ての建物の場合、垂直方向の力に対しては、屋根がきちんと支えられていればあまり問題はありません。水平力に対して働く壁が、直行する2方向で、それぞれ十分に配置してあるかどうかが重要です。ただし、壁の量が十分でも、建物全体にバランスよく配置されている必要があります。壁がバランスよく配置されていないと、壁のある側に力が集中してしまい、建物にねじれが生じたり、過大な力の集中によりその部分が破壊されたりする可能性があります。ラーメン構造の場合は、原則として、柱・梁が格子状に整然と配置されている必要があります。

2階建て以上の建物の場合は、垂直方向の力に対しても、十分に検討する必要があります。壁構造の建物では、室内の家具や人の重さによって生じる力は、床版または床を支える構造体を通して壁に流れ、壁によって基礎から地盤へと流れて行きます。水平に作用する力は、壁によって受け止められ、垂直方向の力に変換され、壁を伝わって基礎から地盤へと流れます。こうした力をスムーズに地盤まで流すためには、上下階の壁を同じ位置に配置する必要があります。特に鉄筋コンクリート造の場合は、壁自体の重量(自重)が大きいので、上下の壁位置がそろっている必要があります。上階の壁の下にそれを支える壁が無い場合には、上階の壁を空中で支える構造体が必要になります。この構造体は、きちんと下階の壁で支えられていなければなりません。勿論、この構造体には大きな負担がかかります。ラーメン構造で耐力壁を設ける場合も同様です。この構造壁は、平面的には、同一ライン上に並んでいるほうが有効です。特にツーバイフォー(2×4)の場合は、このラインがきちんと構成されていることが大切です。また、構造壁は建物全体にバランスよく配置されている必要があります。バランスが悪いとねじれが発生したりします。鉄筋コンクリート造の床版(スラブ)やツーバイフォーの床パネルも水平力に対して働き、建物の変形を防ぎます。吹き抜けを設けるとその部分の床がなくなりますので、それに対する補強等が必要になることがあります。吹き抜けは魅力的な空間ですが、構造的には弱点となる場合もあります。

2階建て以上の軸組み構造の建物の場合、室内の家具や人の重さによって生じる力は、床版または床を支える構造体を通してそれを支える梁に流れ、梁を支える柱によって基礎から地盤へと流れて行きます。水平に作用する力は、構造壁によって受け止められ、垂直方向の力に変換され、柱を伝わって基礎から地盤へと流れます。こうした力をスムーズに地盤まで流すためには、上下階の柱を同じ位置に配置する必要があります。上階の柱の下に下階の柱が無い場合には、上階の柱を支える梁が必要になります。この梁を下階の柱で支えることになります。この梁には、上階の柱が乗る位置に、大きな力がかかります。特に上階の耐力壁を梁のみで支える場合は、大きな負担となります。できればこれは避けたほうがよいでしょう。ラーメン構造も柱と梁で構成される構造体ですので、同様です。特に鉄筋コンクリート造の場合は、自重が大きいので、上下階の柱は原則的に同一位置になければなりません。構造壁が建物全体にバランスよく配置されていなければならないことは、壁構造と同様です。在来工法では、水平力による建物の変形を防ぐため、建物の隅角部に火打ち梁を設けますが、最近では、ツーバイフォーと同じように床をパネル化し(剛の床)、水平力に対して強くした建物も多くなりました。特に3階建てにした場合は、剛の床にしないと構造的に苦しくなります。

建築物の壁のすべてが構造として働いているわけではありません。単なる間仕切壁もあります。構造壁と単なる間仕切壁との区別を図面から読み取るのは、木造の場合は図面上に表記されていないと難しいのですが、鉄筋コンクリート造の場合は、構造体以外の壁は鉄筋コンクリート以外の材料で作られていることが一般的で、壁の厚さも薄くなっていますので、判断しやすいと思います。木造の場合も、薄い壁は構造壁ではありません。

一般的な木造住宅(平屋建てまたは2階建て)以外の建物は、確認申請時に構造図と構造計算書が必要になります。このような建物は、きちんと構造設計され、構造計算されていますので、その通りに工事されていれば構造上問題はありません。ただし、計算上はOKでも、かなりきわどい構造もありますので注意することが必要です。構造計算ではかなりの安全率を見ていますので、崩壊することは無いですが、大きな地震時や長年の内に問題の発生する可能性があります。平屋建てや2階建ての木造住宅も、きちんとした設計者が設計した建物は問題が無いでしょう。ただし、木構造はどうにでもなるという側面もありますので、一応チェックしてみたほうがよいかもしれません。

ここで説明しているのは、建築構造の基本的なことのみで、実際の建物ではここで説明していない構造要素も含まれてきます。また、原則的な構造法のみに固執していると、つまらない建物になってしまうかもしれません。優れたデザインと構造を整合させることも、設計者の仕事です。実際の建物に関しては、設計者などに構造についての説明をしてもらい、その建物についての理解を深めておくことをお勧めします。

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